馬面の赤猫

 昔、馬面の家に一匹の赤猫がいた。この猫は毎晩家を出て、いつも夜更けては変えるのであった。その頃、千束の一里塚のあたりを通るものが、毎夜のように何者かのために害され、人々はここを通るのをたいそう恐れた。
 加賀の藩士がこれを聞いて、人々のためにこの危難を除こうと思い、ある夜そこの木に登って時を待っていた。やがて夜が更けると、二、三匹の赤猫が出てきて、一匹が音頭をとり、他の猫が踊っていかにも楽しそうであった。しがらくすると一匹の猫が、「今夜は馬面のばあさんはなぜ襲いのだろう」といったが、間もなく老婆もあらわれて、みんな大喜びで手を組んで踊っていた。
 この様子を、息をころしてじっと見ていた武士は、そのうちに見つけられてしまった。老婆は
たいそう驚き怒って、頭に鍋をかぶり、木にのぼってきて武士を害しようとした。武士は少しも騒がず、一刀の鞘を払ってひとつきに老婆の背中を刺した。
 老婆は怖さを忍んで木から下りて家に帰った。武士は夜の明けるのを待って馬めんの家をさがし、本人にその話をして老婆を切り殺したところ、一匹の大きな赤猫に変わった。それで赤猫が老婆に化けていたことがわかった。しかし馬面の家では後のたたりを恐れて、は白山神者を建ててこれを祀った。その祭りを町の人々は猫祭りと呼んだ。